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遺留分に関する民法の特例(その1)

2019年11月12日更新

前回の予告通り、死後の手続きのスピンオフで「中小企業の事業承継と遺留分」について書いてみます。遺留分についてみっちり勉強してきたので理解しやすいかと思います。

 

まず、正式名称ですが「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が根拠法になります。平成2059日に成立し、同年101日に施行されました(民法の特例部分は翌年31日施行)。

 

本法の趣旨は、事業承継における「争族」の防止にあります。

と言いますのも、

①社長が生前贈与や遺言によって、自社株なり事業用の資産を後継者にまとめようとしても、それらの財産は遺留分の算定基礎財産に算入されるので、遺留分減殺請求された場合には、自社株や資産は分散し、円滑な事業承継が阻害されます。

さらに、

②たとえば後継者が優秀で、自社株の価値を上昇させたとしても、遺留分の評価時点は≪相続開始時≫なので、その上昇した価額が算定基礎財産の価額になってしまい、想定外の遺留分の主張を受ける可能性もあります。

 

そこで、円滑な事業承継にとってマイナスとなる上記問題を事前に防止するべく2つの特例制度が定められました。

具体的には、

    除外合意 = 自社株などの価額を算定基礎財産から外すこと

    固定合意 = 自社株などの価額をあらかじめ固定すること

※①②組み合わせることも、①のみ、②のみ選択も可能

 

    によって、現在の経営者から後継者が生前贈与などによって取得した自社株などについては、他の相続人は遺留分を主張できなくなります。その結果として、「争族」のリスクを最小化し、後継者にスムーズな事業の承継を可能にします。

    によって、自社株の価額が後継者のおかげで上昇したとしても、遺留分の額には影響しないことから、後継者は経営意欲は維持・向上し、また相続発生時に想定外の遺留分の主張を受けることがなくなります。

 

ここで、遺留分をしっかり勉強された方は「放棄は?」と考えるかもしれません。

しかし、放棄は負担と不確実性があります。

 

遺留分を放棄するには、各人が家裁の許可を受ける必要があります。弁護士などの専門職以外の一般人には理解することから始める必要があるので、時間的・精神的・金銭的負担が大きいといえます。

 

また、各人が裁判所に申し立てる以上、裁判所の判断にばらつきが生じる可能性は否定できず、その結果、実務上は利用しにくいのです。事業承継にギャンブル的要素は必要ないですし。

 

したがって、一般的に"遺留分の放棄"は、事業承継においては利用しにくい制度と言われています。

 

次回、当該特例を受ける要件や流れを確認しましょう。


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